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寺院の未来を守る「事業承継」と財産トラブル回避の要諦

2026.02.05寺院の未来を守る「事業承継」と財産トラブル回避の要諦

寺院における住職の交代は、単なる役職の引き継ぎではありません。それは、何代にもわたって受け継がれてきた「法灯(ほうとう)」を次世代へと託し、檀信徒の皆様とのご縁を未来へつなぐ重要な儀式であると同時に、実務的には一番揉めやすい局面でもあります。

特に、お寺の財産と住職個人の財産の境界が曖昧な場合、親族や弟子、さらには檀家様を巻き込んだ深刻な紛争に発展しかねません。

本稿では、次世代の後継者が安心して寺務に専念できるよう、今から備えておくべき「寺院の事業承継」における財産管理のポイントを、弁護士の視点から解説します。

最大の火種は「名義と実態のズレ」

寺院の事業承継において、最も多く、かつ解決が困難なトラブルの原因は、「宗教法人としての資産」と「住職個人の財産」が混同されていることにあります。

なぜ「名義」が問題になるのか

かつては、寺院の境内地や庫裏が便宜上、住職個人の名義で登記されることが珍しくありませんでした。また、先代から相続した際に名義変更を行わず、数代前の「先々代名義」のまま放置されているケースも散見されます。

実態が「お寺の施設」であっても、不動産登記簿上の名義が個人のままであれば、法律上は、こちらの意図とは無関係に、住職個人の遺産として扱われます。

実際に起こり得るリスクの例

遺産分割協議の紛糾

住職が亡くなった際、境内地が個人名義のままだと、お寺とは関係のない親族(他家に嫁いだ親族など)も含めた遺産分割協議の対象になってしまいます。

遺留分の主張

お寺を継がない兄弟姉妹などの法定相続人が、個人の遺産として遺留分(自分の最低限の取り分)を主張し、境内地の買い取りや立ち退きを迫る恐れがあります。

「お寺のものに決まっている」という関係者の共通認識は、残念ながら法的な争いの場(裁判所など)では決定的な証拠にはなりません。客観的な登記情報や帳簿が優先されるため、今のうちに財産目録を整理し、名義と実態を一致させておくことが、将来の紛争を未然に防ぐ第一歩となります。

財産の「仕分け」と遺言書による確実な承継

寺院の機能を維持するためには、資産を以下の3つに明確に区別し、それぞれに対して適切な対策を講じることが不可欠です。

資産区別の整理表

分類 具体例 承継の方法
宗教法人資産 本堂、境内地、法人名義の預貯金 代表役員の変更手続き(登記)
住職個人資産 庫裏(個人名義の場合)、私的な預貯金、自家用車 相続(遺言書による指定が有効)
祭祀財産 系譜(過去帳)、祭具(仏具)、墳墓(お墓) 祭祀承継者の指定(民法897条)

「祭祀財産」の指定漏れに注意

通常の遺産(不動産や預貯金)とは別に、民法897条では、系譜・祭具・墳墓を「祭祀財産」と定義し、通常の相続財産とは区別して、「祭祀主宰者」が承継すると定めています。

お寺にある住職家の過去帳や歴代住職の墓について、遺言で明確に「長男〇〇を祭祀主宰者に指定し、これらを承継させる」としておかないと、これらの所有を巡って親族間で争いが生じる可能性があります。

遺言書による「後継者への集中」

法人名義への変更が難しい個人名義の不動産(庫裏など)については、遺言書の作成が有効です。

不動産の特定: 境内地や庫裏など、寺院運営に不可欠な不動産を特定して後継者に「相続させる」旨を明記します。

遺留分への配慮: お寺を継がない親族に対しては、代償金(現金)を別途用意する、あるいは遺留分を侵害しない範囲で他の財産を割り振るなど、法的に隙のない設計を行います。

実際のご相談でも、「うちは家族仲が良いから大丈夫です」と言われることは少なくありません。しかし、相続の場面ではご本人ではなく、配偶者やその家族の意向が前面に出てくることも多く、想定外の対立に発展するケースを数多く見てきました。

意外に見落としがちな「変更登記」と「過料」のリスク

無事に後継者が決まり、代表役員(住職)が交代した際には、法務局での変更登記が法律で義務付けられています。

2週間以内の登記義務

宗教法人法第53条では、代表役員に変更があった場合、2週間以内に主たる事務所の所在地において登記を行わなければならないと定められています。多忙な交代時期や、法要が重なる時期にはつい後回しにされがちですが、注意が必要です。

放置することによる不利益

この登記を長期間怠ると、裁判所から10万円以下の過料という金銭的なペナルティ(制裁金)を課される可能性があります(宗教法人法88条)。

また、登記が古いまま放置されていると、以下のような実務上の支障が生じるケースもあります。

・銀行融資の際に代表権の証明ができず、融資が受けられない

・不動産の売却や処分が法的に認められない

「後でまとめてやればいい」という考えが、思わぬ行政罰や社会的信用の低下を招く恐れがあるのです。

弁護士への相談

寺院の事業承継は、単なる民法や宗教法人法の解釈だけでは解決できません。

各宗派が定める宗制との整合性、その土地特有の慣習、そして長年お寺を支えてきた檀信徒様との信頼関係が複雑に絡み合うためです。弁護士が関与することで、以下のような具体的なサポートが可能になります。

財産の適切な仕分け: 曖昧になっている個人財産と法人資産を整理し、必要に応じて時効取得の援用なども検討しながら、最適な名義変更の方法をアドバイスします。

「争族」対策としての遺言作成: 遺留分や祭祀財産に配慮しつつ、寺院の基盤が散逸しないよう、法的リスクを最小限に抑えた遺言書を作成します。

客観的な第三者としての調整: 親族間や責任役員会との話し合いに立ち会い、法的な観点から客観的な説明を行います。住職様ご自身では言い出しにくいことも、専門家が介入することで感情的な対立を抑え、円満な合意形成を支援します。

まとめ:早期の「備え」が寺院の未来を守る

住職交代は、お寺が新しく生まれ変わる大きな好機でもあります。しかし、対策を怠れば、その混乱が長きにわたる紛争の火種となり、最悪の場合は寺院の存続すら危うくしかねません。

「まだ元気だから大丈夫」と思わずに、余裕のあるうちから法的なメンテナンスを行っておくことが、大切なお寺とご家族、そして信徒の皆様の安心に繋がります。

当事務所では、大阪・兵庫などの関西圏を中心に、多くの寺院・宗教法人様の顧問弁護士として、デリケートな承継問題に深く関わってまいりました。

「何から手をつければいいか分からない」「今のうちに財産の名義を整理しておきたい」といった小さな不安でも構いません。まずは一度、専門家である弁護士にご相談ください。貴山の大切な「法灯」を次代へつなぐお手伝いをさせていただきます。

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【ご案内】

本記事は、寺院の事業承継に関する一般的な情報提供を目的としたものです。実際の承継においては、各宗派の規則や個別の資産状況により最適な対応が異なります。個別具体的な事案については、必ず専門家へご相談ください。

寺院法務・宗教法人法務においては、トラブルが表面化する前の「早期相談」が、円満な解決と伝統の維持に向けた最も有効な手段となります。

本件に関するご相談をご希望の方は、お電話またはお問い合わせフォームよりご連絡ください。

(帆風法律事務所 弁護士 吉住豪起)

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